梶井基次郎という作家に、「桜の樹の下には」という短文があります。「桜の樹の下には死体が埋まっている!」という始まりの、背筋のぞっとするグロテスク な文章です。でもしかし、そのグロテスクさが、桜の花の、ぞっとするほどの美しさを見事に描き出します。あふれかえる白い花々の、この世のものと思われな いほどの美しさ。恐ろしいほどの美しさ。それを細密に描き出す基次郎の筆は、空想の世界へと入り込みます。
「桜の樹の下には死体が埋まっている!」。ありえないほどの美しさは、ありえないものが支えている。この美の恐ろしさを描き切る基次郎は、豪華絢爛たる詩人です。檸檬を見て基次郎の名を思い出される方も多いでしょう。私は、桜の花を見ると思い出すのです。