top of page

2006年7月のことば

  • 執筆者の写真: uemurabunko
    uemurabunko
  • 2006年7月1日
  • 読了時間: 1分

更新日:2月15日

 トーマス・マンの「マリオと魔術師」は、不気味なものに触れたい人におすすめです。魔術師チポラが保養地で興行し、事件が起きた、というだけです。しかし マンの筆にかかると、そこから人間の悪魔的なるものが浮き彫りにされていきます。

 文中の語り手が、チポラの魔術を冷静に分析し、チポラの闇に光を当てようとします。ところが、この分析によって、むしろチポラの闇は深まっていきます。 マンは、チポラの魔術を種明かしして、闇からその姿を造形するとともに、それによって、その姿の内なる闇を造形するのです。

 手品師マンは、魔術師チポラを自在に操り、その破滅をも準備します。「人間の内心の秘奥の蹂躙(じゅうりん)」。純朴なマリオの心に土足で踏み込んだチ ポラは、罰を受けます。でもそれなら、偉大なる作家マンもまた、罰を受けねばならないでしょう。マンの筆は、「人間の内心の秘奥の蹂躙」を行ないます。こ の業の深さを皮肉に自嘲するからこそ、マンは、魔術師チポラを醜悪に造形したのかもしれません。罰を受けるべき人間として。

最新記事

すべて表示
2019年12月のことば

十二月になって、さっそくばたばたしてしまいました。忙しい月の到来です。京都の朝 晩は冷え込みますが、昼間は意外なほど穏やかで、まだコートを使っていません。 とはいえ、間もなく本格的な冬の到来です。先月は平泉寺白山神社に行ってきました。...

 
 
2019年11月のことば

十一月の京都は穏やかな日差しで始まりました。暑すぎる夏の後、少しでもこんな気候 が続いてくれたらと思います。  さて、先月は久しぶりに仙台に行ってきました。東日本大震災の後、初めての訪問とな ります。短期間ですが、いろいろ考えさせられることの多い滞在でした。宿泊したのは新...

 
 
2019年10月のことば

パソコンが、壊れました。かろうじて画面の一部が見えますが、点滅してやがてブルー になります。本当に、ブルーな気持ちになります。  ということで、別のパソコンを使っているのですが、壊れた方は2006年モデル。あちこ ちがたが来つつも、よく頑張ってくれたと思います。ただ、パソコ...

 
 
​COPYRICHT(C)合同会社植村文庫 ALL RIGHTS RESERVED
bottom of page