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2007年8月のことば

オリジナリティーとは、何でしょうか?たしか作家の星新一さんが、それは「異質なものの組み合わせ」であると、言っておられたように思います。人類史上、完全に新しいものを発明するのは至難の技ですが、これまであったものを新しく組み合わせることは、まだしも可能です。例えば、「でどべぎゃっ」という表現を発明しても、その表現としての力は弱いですが、「銀いろの空のすすき」といった表現は、そこからの可能性が広がっていきます。宮沢賢治の魅力の大きさも、そこにあるように感じています。

 そのような「異質なものの組み合わせ」は、矛盾したものを懐に入れて生きていく中で、特に出会いやすくなるのでしょう。表現のみならず人間としても、宮沢賢治は魅力的ですが、この人の中には、何かとても透き通っていて、しかし底の見えないものがあり、とても不安になります。いろいろと深い矛盾を抱え込んだ人であったからこそ、あのような、普通にはありえない表現を次々と生み出しえたのでしょう。

  「青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした」。この「銀河鉄道の夜」の一節を読みますたびに、私は、賢治はこの世の人ではないと感じるのです。

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